歯科医院の院長をしている船橋大志（ふなばし　ひろし）は典型的なアラフィフのオッサンだった。彼には一つの悩みがあった。薄毛だったのだ。従業員が自分対し気を遣ってしまう事が何よりつらかった。そこで意を決してCMで有名な「ハツモウクリニック」に通うことにした。もちろん誰にも内緒でだ。最初は半信半疑だったが、半年間通ってみた結果、見事に発毛に成功した。自分の髪の毛が復活したのだった。しかし、発毛後の従業員の反応に船橋は戸惑った。以前よりもしげしげと船橋の頭部をみつめているのだ。その視線に耐えきれなくなった船橋は、ついに部下に問いただした。その答えを聞いた船橋はやっと気がついた。本当に自分が欲しかったものは、髪ではなく心の安堵であったことを。船橋は「こっそりとハツモウクリニックに通っていたこと」をカミングアウトすることにした。それによって心の安定を得ようと決心したのだった。