コンテスト受賞作レビュー『金沢友禅ラプソディ』

職人世界で生きる人々の奮闘を描いた秀逸な人間ドラマ

作品名:金沢友禅ラプソディ
著者:逢巳花堂

お薦めPOINTその① 加賀友禅の魅力と職人の世界

 加賀友禅という言葉を聞いたことはあっても、それが何なのかと詳しく説明できる人は少ないのではないかと思います。簡単に言うと友禅とは日本の着物の伝統的な染色技法のことで、本作はその中のひとつで石川県金沢市を中心として発展した『加賀友禅』の職人の物語です。これだけ聞くとかなり渋く重たい話なのではと想像してしまうかもしれませんが、もちろんそんなことはありません。主人公を含め登場人物は恐らく多くの読者の方々と変わらぬ若者で、昔ながらの慣習や伝統に対して彼らは現代の感性をもって臨みます。それ故たとえ馴染みのない職人の世界であっても共感とともに没頭することができて、また加賀友禅という伝統文化の魅力にも触れていくことができます。本作はこの点を非常に上手く描き、そしてその設定を違和感なく物語の中に落とし込んでいるので、読めば読むほどキャラクターや友禅に親しみを覚えていきます。

お薦めPOINTその② 人間としての個性と主張を持ったキャラクター

 一般文芸の現代ドラマである本作では登場する人物は決して多くなく、またライトノベルなどにありがちな見た目や口調での表面的な特徴づけというのもありません。しかし彼らは登場して間もなく、明確な個性をもったキャラクターとして読み手に印象付けられます。それは彼らが人や仕事や伝統というものに対してブレない考えと主張を持っていて、その人間としての内面的な部分がはっきりと読み取れるからでしょう。そしてそれぞれの主義主張に譲れないものがありつつも、同時にハッとするような影響を受けたりもします。この物語にはそんな彼らの、友禅の仕事や会話を通して成長してゆく心の変化を共感とともに読み解いていく面白さがあります。

お薦めPOINTその③ ついページをめくりたくなるストーリー

 文芸作品の中には小難しい言い回しや難解な文言が出てきたりすることがありますが、本作の文章は徹底して読み易く書かれています。そのため普段はライトノベルしか読まないという読者でもテンポよく読み進められるでしょう。特にストーリーは非常に小気味良く起承転結が盛り込まれていて、様々なトラブルが生まれてそれらが同時進行しながらも本筋の大きな流れは淀まず進んでいくという構成です。このエンタメ的な引きの展開がしっかりと用意されていることで、読者は手を止めることなくついページをめくってしまう。そしていつの間にか一気に最後まで読んでしまうというような吸引力をもった作品です。

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