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【お薦めレビュー】アイン・スタンスラインの波瀾なる軌跡と彼が起こした奇跡について
ファンタジーにSF要素も取り込んだビルドゥングスロマン
作品名:アイン・スタンスラインの波瀾なる軌跡と彼が起こした奇跡について
著者:杞優橙佳
お薦めPOINTその① 緻密な設定を基に築き上げられた世界観
昔からファンタジーといえば「剣と魔法の世界」として連想されがちですが、ハリウッド映画や小説投稿サイトなどでも“テンプレ”と呼ばれるその設定を用いた作品が増え続けていることで、最近ではさらにその傾向が顕著になってきています。正直この作品も、読み始めの印象ではその類であろうという感覚がありました。しかしすぐに“違う”と気付きます。本作の世界は漠然としたファンタジー世界が唐突に存在しているのではなく、それまでの歴史や背景が充分に、そして緻密に練り上げられており、その土台の上に必然的に成り立っている世界なのです。本編では直接描かれることの少ないそれらは、しかし人々の行動や文化・習慣、登場人物のセリフの端々から伺い知ることができ、それ故にストーリーの重みと説得力が増しています。読めば読むほどにその設定が頭の中に滲み込んでいき、いつの間にかその世界観にどっぷりと浸っている、そんな奥深さを持った作品です。
お薦めPOINTその② 主人公とそれを取り巻くサブキャラの魅力
本編の主人公は言わずもがなアイン・スタンスラインという一人の青年です。そして外伝の主人公となっているもう一人の青年ケルト・シェイネン。良く似通っている部分もあれば、対照的とも言える部分もあるこの二人の性格、思想、生き方、野望。それらは非常に強烈な個性と輝きを放っており、二人を取り巻く沢山のキャラクターにも影響を及ぼします。物語の主軸となるのは間違いなくアインとケルトですが、彼らの心情や思考を細かに描かれている本作は、彼ら以外の(ときには名もなき大衆も含め)大勢の人々の変化や成長も読み解くことができます。それによって一人一人の人格が浮き彫りになり、本作が単なる主要人物だけに着目した作品ではないと解ります。あるいはアインが人々や世界に与える影響を含めて“波瀾なる軌跡”と呼べるのかもしれません。
お薦めPOINTその③ サクセスストーリーとしての爽快感
ビルドゥングスロマンは一般に「教養小説」として訳されますが、本作においては「成長物語」として解釈した方が直感的かもしれません。主人公のアインは思慮深い極めて聡明な人間で、関わるもの皆が認めざるを得ない傑物です。そんな彼が高い志を持って歩む道は、当然のことながら偉業の道です。辺境の閉鎖的な村に住んでいた名も無き青年が、己の才のみを頼りに困難や波瀾を乗り越え成長しつつ、やがては世界を変えていく。その過程や彼の言動はときに痛快であり、この作品は爽快なサクセスストーリーとしての側面も持っています。そのため、複雑な世界情勢や人間ドラマは少し苦手という方でも、シンプルに彼の成長物語を楽しむことができるでしょう。
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